2015年。ワシントンにある世界屈指の博物館、スミソニアンの美術館で、5か月におよぶ大回顧展が開かれ、注目を集めた日本人画家がいた。国吉康雄(くによしやすお・1889~1953)20世紀初頭、16歳で移民として単身海を渡り、ニューヨークで活躍した。 没後60年以上をへて、なぜいま、脚光をあびるのか?
もの憂げな表情が印象的な代表作「もの思う女」。世界恐慌に揺れる、混乱のニューヨークで描かれた。はかなげだが強い意志を秘めたその女性は、不安を抱えて生きる人々の心をつかんで離さなかった。国吉は社会の底辺で生きる人たちを柔らかな筆遣いでとらえ、全米の美術館が選ぶ優れた画家のトップ3にも選ばれた。美術史家トム・ウルフさんは、作品は「国吉自身の大変な人生からにじみ出たもの」と読み解く。
人種差別、太平洋戦争、戦後のいわゆる赤狩り・・・。次々に押し寄せる苦難の中で、国吉は傑作を残した。今回の展覧会をきっかけに発表された絶筆「オールド・ツリー」は、まさに人生そのもの。アメリカの影を背負いながら描き続けた国吉康雄。時代や国を越えるその魅力を探る。